本当の意味での楽しさ
秋の声が聞こえ始めた頃、私のもとに、一通の葉書が届きました。ドイツより帰国してから、私が拠点を変えるまでの間、教えていた生徒からでした。
春の予定が延期の延期となった夏の発表会で、念願だった、ベートーヴェンのピアノソナタ第14番「月光」の第三楽章を弾くことができた喜び。発表会を区切りとし受験体制に入ったこと。受験勉強の息抜きにピアノを弾いていること。今後もピアノは弾いていきたいこと、などが綴られており、『大きくなって色々な壁にぶつかった時、ピアノが気分転換のひとつとなるように、音楽が癒しであるように、音楽のある生活で心豊かな人生が送れることを願って』厳しくも愛情を持って、日々レッスンをしている私にとって、とても嬉しいお便りでした。
数秒で動画を送受信できる便利な世の中です。演奏を聴いてほしいと、演奏動画の送信もしてくれました。年長さんだった彼も、気づけば中学三年生。ピアノに関するすべてのことが初めてで、ピアノ椅子に一人で座ることすら必死だった小さく幼かった少年が、立派な青年となり、力強い演奏をしている姿に、「どんなに努力をしたのだろう…」と、涙の粒が零れ落ちてしまいそうで、演奏動画を見ている間、瞬きも出来ませんでした。
彼自身の日々のコツコツとした積み重ねと、ピアノが好きだという強い気持ちはもちろんですが、小学高学年から中学生という多感な時期を導いてくださった現在のピアノの先生や、彼の成長に合わせ、時には付きっきりで、時には遠くから見守ってこられたご家族のサポートがなければ、続けることはできなかったかもしれません。彼が手に入れたであろう”ピアノが弾ける”という生涯の宝物。 いつも支えてくださっている多くの方への感謝の気持ちを忘れずに、落ち着いたらまた、ピアノと共に、人生を心豊かに歩んでほしいと思います。
時を同じくして、今春、大学生となった生徒からも、「キャンパスでの授業が受けられずに実家に戻り遠隔授業を受けていた期間、気分転換に過去の楽譜を引っ張り出してピアノを弾きだしたら、やっぱりピアノは楽しいな!好きだな!と思い、ほぼ毎日ピアノを弾いていました♪」と、メッセージが届きました。私は決して、ただ優しい先生ではありませんが、彼女にも、私がピアノのレッスンを通して伝えたいこと、想いが届いているのだと思い、大変嬉しくなりました。
基礎さえきちんと身につけておけば、ピアノは一生楽しむことのできる、大きな財産となります。ただ一瞬の楽しいではなく、本当の意味での楽しさを、音楽を奏でる喜びを、共に手に入れてみませんか?
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